先日の生態学会の発表スライドで,初めてアニメーションを使ったプレゼンをやってみた.自動撮影カメラの撮影イベントがどのようなプロセスで決まっているのかを説明するためのものだ.作成は,Rのパッケージのその名も「animation」を利用した.便利なもので,非常に簡単にGIFアニメを作成できる.install.packages("animation")でCRANからインストール可能だ.
残念ながら,せっかく作ったものの,アニメーションは論文の図として使うことはできない.今,昨年の哺乳類学会・奨励賞の受賞原稿を哺乳類科学から依頼されて書いている.その中で,撮影頻度の決定プロセスを説明するくだりがあるのだが,紙媒体ではアニメーションを再現できない.何ともじれったい気分になる.文章で長々と説明するよりも,はるかに視覚的に捉えた方が分かりやすいのにと思ってしまうのだ.アニメーションを実際に見せる機会が,今回のような学会発表やゼミなどだけに限られてしまうのも,私としても,もったいない気もする.頑張って作ったのに,限られた時間では「じっくり眺める」ということをしてもらいにくいからだ.せっかくなので,同じアニメーションをここで掲載して置くことにしよう.
アニメーションで示したいのは,動物の撮影イベントは,どのようなプロセスで決まっているかということである.より具体的には,ある期間における動物の撮影イベントの回数(撮影頻度)が,動物の密度に加えて,撮影可能な面積と動物の平均移動速度によって決定されることを視覚的に示したい.図中の三角形が自動撮影カメラの撮影面積(動物がこの中に入ったら撮影されるという検出エリア)を示しており,線はそれぞれの動物の移動の軌跡を示す.動物が検出エリア内に入ったら黄色く点滅するようにしている.
動物の移動は,Biased
random walkと呼ばれるもの.各ステップの移動距離はランダムに決まるが,移動角度は行動圏の中心に巣串だけ高い確率で向かう方にバイアスをかけている.ステップ間の移動は直線となることを想定している.各ステップにおける動物の位置座標を結んだ直線が,検出エリア(今回は正三角形)を横切るかどうかをステップごとに判定させている(これを実装するのはかなり面倒.必要なのは高校数学だけだけど).
さて,アニメーションの見方を説明したうえで,本題に入ろう.下の図は,上の図と比べて検出エリアの正三角形の一辺の長さを上の半分にしたもの(動物の密度と動きは変えていない).至極当然のことであるが,上では撮影されているのに,今回は撮影されていないということが約半分の頻度で起こっている.「半分の頻度」かどうかは,この図からは分かりにくいかもしれないので,改めて別のアニメーションで示すことにしよう.
次に動物の移動速度(各ステップ間の距離)を2倍にしてみよう.検出エリアの面積は1番目と同じにしている.動物の密度もやはり同じだ.アニメーションを眺めると,明らかに黄色が点滅する頻度が増えていることが分かる.実は2倍に増えているのだが,この図では少し分かりにくいかもしれない.
1~3番目の累積撮影回数をアニメーションとして図示すると以下のようになる.黒が1番目,赤が検出エリアを小さくした2番目,青が移動速度倍の3番目だ.どれも動物の密度は同じなので,撮影頻度は,検出エリアのサイズと動物の移動速度にも依存していることが分かる.
実はこの3つのパラメータ(動物の密度D,検出エリアの正三角形の一辺の長さL,動物の移動速度V)の撮影頻度Yへの影響は等価であり,以下のような関係性が成り立つことが確かめられている.
Y = D × L × V
物理学における「ガス分子モデル」(ガス分子同士の衝突回数を予測するモデル)と等価なものである.個体識別のできない動物を対象にした,自動撮影カメラを用いた密度推定方法を最初に考案したRowcliffe et al. (2008)は,このモデルをRandom encounter model (REM)と命名した.Rowcliffe et al. (2008)は検出エリアを半径r,中心角θの扇形と想定したので上より複雑な式になっているが,発想はこれと全く同じものである.補足しておくと,この関係式は,「動物がカメラと無関係に動くこと」を必要としているが,「動物の動きがランダムであること」は必要としない.実際には,カメラをランダムに配置しておけば,(動物の移動速度が既知な場合)この関係式から密度を推定できることになる.
以上,(いろいろ細部ではごまかしがあるものの)撮影頻度を密度指標にすることの問題点とREMの分かりやすい?説明になっていると思う.
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