3日目
3日目は前日に飲んだこともあり,のんびりと出発.今日のメインはポスター発表を聞くことと昨年度参加して非常に楽しかった自由集会「W27 間接効果を通して見る世界:(2)生態系から見た間接効果の『ごりやく』」への参加.
ポスターは一通り見て回った後,面白いのを集中的に見る.ポスターは説明してくれるのはうれしいし理解はしやすいけど,大体のことは見たらわかるので,分からない点だけ質問に答えてくれるスタイルが一番あり難い.もちろん,一生懸命発表しようとする熱意は素晴らしいと思うのだけど.以下,興味を惹かれたポスターをいくつか.
P1-075 ヒグマの掘り返しに餌密度と植生タイプが与える影響
セミのバイオマスって結構すごくて,幼虫・成虫を問わず生態系に大きなインパクトを与えていると思っているんだけど,なかなか実証的に示した研究が少ない.このポスターでは,ヒグマが地面掘り返して土壌動物食べてるんだけど,結構セミを食っているのではないかという話があった.掘り返しのもたらす間接効果も含めて研究するのは面白そう.人気で話は直接伺えなかったが,機会があればいろいろ質問したいことが多かった.
P1-082 野生コウモリは他個体に餌場を譲るのか?~音響情報から探る互恵的利他行動の可能性~
これまた人気で,ポスターさえちゃんと見られなかった.互恵的利他行動といえば,霊長類の毛づくろい(これはショボい話だけど)とチスイコウモリの血の吐き戻しと相場が決まっているが,他のコウモリでも互恵的利他行動があるのではないかという発表だと思う(多分).ただし,トリバース的な互恵的利他行動の進化条件は,「与える利益よりも損失の方が小さいこと」,「裏切り者に対する制裁システムがあること」の2つが必要で,後者を成り立たせるためには,「互いに個体を認識していること」,「長期的に関係性が継続すること」などが必要条件だったはずだ.そこまでの情報を野生コウモリを対象に取得できたのだろうか?機会があれば,話を聞いてみたい研究だ.
P1-086 熱帯山地林におけるボルネオヒゲイノシシの標高間移動
昔からよく知っている京大の長野さんの発表.ボルネオ島キナバル山の南西?側に,低地から高地まで,数年間にわたって自動撮影カメラを置き続けた研究の集計結果.標高移動をしていることが非常に明瞭で,カメラから移動パターンを推測できる極めてまれなデータ.ボルネオに生息するヒゲイノシシは,混交フタバガキ林の一斉結実時には,結実ピークを狙って大規模な移動を示すことが知られている.恐らく餌資源量の変動に応じて生息する場所を変化させる種なのだろう.毎度彼女の発表を聞くたびに思うが,面白い生態学的な現象を見つけるのは本当にうまい.多分生まれながらのセンスがある.もう少しデータの提示や統計処理を工夫すれば,非常に興味深い研究を量産できると思う.
P1-211 甲虫体色の適応進化―3Dプリンタ模型を用いた警告食の検証
3Dプリンタが世に出回るようになってしばらくたつが,生態学の分野でうまく利用した研究はそれほど多くない(多分).この研究では,マイマイカブリの体色変異が捕食に与える影響を,3Dプリンターで製造した模型で明らかにしようとしたもの.模型を使うことによって,視覚的な違いのみをうまく取り出せる反面,(例えば構造色といったものまで)本物を再現できているか分からないという限界はありそう.ただ,3Dプリンタという新しい機器をうまく利用した新しい試みで見ている側は非常に興味を惹かれた.こういう新しい挑戦をどんどんやると生態学は最も面白くなりそう.
P1-407 待ち行列モデルの自動撮影カメラにおける哺乳類の相対密度指標評価への応用
自動撮影カメラに関わるシミュレーション研究.群れ動物を対象に撮影頻度(この研究では,撮影間隔の逆数)を用いるとどういうバイアスがかかるかをシミュレーションしている.通常のRAIと,撮影回数を総撮影個体数に置き換えた密度指標(RIAI)への影響をグループサイズを変えながら検証していた.学部生がこういうシミュレーションをあっさりとできる時代になってしまったことに時代の変化を感じる.バイアスをどのようにすれば解消できるのかまで提示できれば,さらに可能性が広がると思う(なかなか難しいだろうけど).
この他にも 面白い発表が多数あった.この日発表していたのは皆大学院生のはずなので,今後のさらなる展開が楽しみである.午後からは,いくつか口頭発表を聞いて勉強.やはり情報量が多い発表でもしっかりと整理されていると理解できるもので,発表技術という点でも学ぶべきところが多かった.例えば,京大農の昆虫生態の方がシデムシのbeggingについての話をしていたが非常に楽しみながら聞けた.もちろん研究結果自体も優れているのだが,研究の前提と得られた結果・知見を端的に伝えてもらえると分野が違っても楽しめる!
発表を終えてポスター会場に戻ると嬉しいニュースが.元大学院生のHさんが動物群集部門のポスター最優秀賞を受賞したとのこと.彼女の研究は私もかなり期待していて,色んな発展性を備えていると思っている.いろいろと事情もありポスター作成に十分な時間をさけたわけではなかったのだが,地道な努力が実を結んだということだと思う.今後さらに努力していい研究をしてほしい.
夕方は,楽しみにしていた「W27 間接効果を通して見る世界:(2)生態系から見た間接効果の『ごりやく』」に参加.それぞれ充実した研究発表だった.ただし,正直に言うと,発表によっては「間接効果」というキーワードとの関連性が必ずしも明示されておらず,こちらがかなり想像を働かせないと自由集会のテーマとのつながりが分かりにくいものがあった.「間接効果」という視点で生態系を見るということを集会の趣旨とするならば,それに見合った形の話し方をしてもらえると聞いている側は助かる.昨年度の発表が初心者(例えばうちの研究室の学生・院生)にも親切な発表ばかりだっただけに,少々期待はずれな面はあった.
4日目
3日目と同じくのんびり参加.ポスター発表を聞きに行く.前日とは異なり,ドクター持ちによる発表が多いので,研究内容も充実したものが多い.房総の過去の植生履歴についてや,マムシグサの送受粉,マダガスカルのヘビ,地球温暖化緩和策がもたらす生物多様性への影響,イノシシの密度指標など,知り合いや興味のあるテーマの発表を中心に聞いて回る.本当はもっと聞いたり見たりしたかったのだが,さすがに疲れてきて途中で休憩.学会が終わってから要旨を見直すと,もうちょっと頑張って聞いておけば良かったと思う発表が多くて後悔...翌日の自分の発表準備が終わっていないので,受賞講演は最初だけ出てホテルに戻る.
5日目
最終日に,自分と指導している学生の口頭発表.仕方がないことだが,最終日に発表というのはどうも落ち着かない.会場についてみると,意外に盛況だった.最終日だし生態学会会員がそれほど興味を持ちそうにないと思っていたので少しびっくりした.やはり最近は,社会実装に関連するような研究テーマの方が聞きに来る人の数が多くなるのだろうか?発表は一度聞いたことのある内容が中心なので,それほど新しい発見はない.自分の発表は若干時間をオーバーしたものの卒なくこなせた(と思う).トップバッターだった東大のY君は,初めての学会発表とは思えない落ち着きだった.
いくつか私のRESTモデルについても(本質的な)質問を頂けた.また,司会のM先生からは,「RESTモデルは困難な大型動物密度推定を大きく前進させた」という趣旨のコメントを頂いた.尊敬するM先生の思わぬ発言だっただけに,正直うれしくてにやにやするのを我慢するのが大変だった.ただし,RESTモデルは決して万能なアプローチではなく,満たすべきいくつかの条件と大きな制約もあるということは注意が必要だ.今後はモデルや推定値だけが独り歩きしないように, その可能性と限界についても周知させていく必要があると感じた.
集会後,学生のY君が房総のイノシシの生活史パラメータの推定について口頭発表.直前までモデルについて二人で悩んでいて発表は練習不足だったが,堂々と発表できていた.自分の言葉で語れたのは,自分で理解し考えたことの一つの成果だろう.横浜から見えていたお母さんもきっと評価してくれたのではないかと思う(笑).学会終了後,ヒョウの研究をしているという学生の相談を三宮の喫茶店で聞く.ちょっと変わった子だけど,研究に対する情熱を感じたので真面目に相談に乗る.フィールド的に制約が大きいだろうが,何とか頑張ってほしい.長い長い5日間を終えて明石の実家に向かう.いや…さすがに疲れたわ.
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