2021年8月31日火曜日

現地調査報告(2021/8/24~8/30@北海道八雲)

 8/24-30の日程で,北海道の八雲で調査してきた.八雲には日大の演習林があり,2016年から毎年夏季に訪れて調査を行ってきた(昨年はコロナで行けなかったけど).今年度は研究員と院生に現地調査は任せる予定だったが,コロナの影響で(?)教員の同行が不可欠とかなんとかで,発表予定だった哺乳類学会もキャンセルして,ドタバタで現地に飛ぶことになった.


 八雲で取り組んできたのは,動物の死体の分解過程についての研究だ.動物の死体は,少なくとも新鮮な時は,ほかの動物にとって豊富なエネルギーと栄養をバランスよく含むこの上ない資源だ.死体とその周辺には多種多様な生物が集まり,普段はなかなか観察できないような活発な生物間相互作用が起こる.その生物間相互作用が分解の方向性や速度にどのように影響するのかを調べるのが研究目的である.過去の調査の様子は,ここここでも紹介している.

快適な宿舎があるのがいいところ

 今回は,院生の追加データ(主に甲虫のデータ)の取得と設置していた自動撮影カメラの回収がメインだった.院生がしっかりと準備してくれたこともあり,全体としてはかなりスムーズに調査が進んだ.カメラも2年間放置しっぱなしだったが,無事にほとんどのカメラを回収できた(しかも,大半を使用可能な状態で回収できた).普段はキツキツの日程で予定していた内容を終わらせるので精一杯なのだが,今回は,ほんの少しだけ釣りをしたり写真を撮ったりする余裕があった.

ササで作った有り合わせの竿で釣り


釣ったイワナとヤマメ

 余裕があると,「自然の中で遊ぶのが好きだったよな」と今更ながら思い出す.竿の先で水流と対話しているとき,小難しいことはすべて忘れられる.いつの間にやら随分違う方向に向かってきているが,私はもともとかなりの野生児で,理屈をこねるよりも自然と一体化することに楽しみを見出していた気がする.今回は,ちょっとだけそのことを思い出せたのは大きな収穫だった.


いかにも北海道の景色だ

 今回までに取りためたデータは,これから着実に論文化していけるはずだ.八雲の調査は,ここには書きにくいようなことも色々あったが,なんだかんだこの5年間で最も充実した成果をあげられた調査だったような気もしている.

2021年8月17日火曜日

現地調査報告(2021/8/10~8/14@房総)

このブログ,振り返ってみると,もともとは「調査の様子や研究関連の知識を身近な人に紹介しよう」という動機で始まったものだった.いつの間にか,多くの人にとってどうでもいいセンチメンタルなな内容になってきているので,ちょっと軌道修正を図りたい.


ということで,私にとって今年度3回目の房総調査の様子を記しておく.


今回の目的は,イノシシによる農業被害調査.とくに水稲被害が,どのような空間構造を持った場所で出やすいのかや,被害対策としてどのようなものが有効かを定量的に評価しようというもの.こんな研究は過去にも腐るほどありそうだが,実は統計的なアプローチをしっかり用いた研究は意外なほど多くはない...多分...(この辺の研究をまじめにレビューしたことがないので,実体がどうなっているのかは正直あやしいところがある).私自身は,あまり農業被害それ自体に強い関心があったわけではなかったのだが,千葉県の某研究所のMさんとの共同研究として今年度から取り組むことになった.


「イノシシが水田なんかで何すんの?」と思うかもしれない.まあ,稲穂が潜在的な食物になりそうなことは確かだが,だからと言ってあまり食っている姿は想像しにくい.動画でも写真でもそんなシーンを見たことがない...という人がほとんどだと思う.私も,稲穂を食ったり水田でぬた浴びして倒伏させたりすることは知識としては持っていたが,いまいちどんな感じか想像できていなかった.


今回の調査で,被害の実態を感覚的に理解できた.イノシシは稲穂の部分を器用に食べていた.ひどいところでは,食害があるだけでなく、ほぼすべての稲が踏み倒されていた.自分が農家だったら,間違いなくイノシシのことを嫌いになっただろう.電気柵や金網柵が張り巡らせて対策されているが,十分な効果が出ていない場所も多かった.確かに被害リスクや対策の効果を科学的に検証する必要はありそうだ.

イノシシが食べた跡(意外にいい写真を撮ってなかった…)
掘り返し跡



今回も研究所のMさんには非常にお世話になった.一見したところ優男で頼りない感じさえするのだが,非常に気骨のある魅力的な人だ.正直,私はアトピー性皮膚炎という持病もあり,この時期の調査は結構つらいものがあるのだが,それでも充実した時間を過ごせた.この研究のモチベーションの一つは,彼との共同作業だと言ってもいいかもしれない.データの入力や整理もしなければならないが,来週から北海道に行かないといけなくなった.ちょっとドタバタが続くが,焦らず進めていきたいところだ.


学生がとってくれた写真.なんか足が長く見える…



この通りの真夏の炎天下での調査