2018年12月11日火曜日

現地調査報告(2018/12/7~12/10@八雲演習林)


 12月7日から10日まで34日の旅程で,北海道八雲町にある日本大学の八雲演習林に行ってきた.科研費「『界』をまたがる資源競争―バクテリア・虫・鳥・獣の死肉をめぐる攻防」のための現地調査のためだ.
冬のキツネはモフモフしていてかわいい
 
 今回は(今回も?),なかなか大変だった.雪が積もる直前のタイミングを狙って,過去の積雪データを検討しながら日程を決めたのだが,調査に行く直前から降り始めてしまったのだ.とくに大変だったのは演習林内での車移動だ.平坦な道なら何でもないのだが,急傾斜地になると前に進んでくれなくなる.車の側面,底面と雪との摩擦で減速するうえに,車が押し出して出来る雪の壁がどんどん大きく重くなっていく.さらに,場所によっては地面が凍結しておりスリップして推進力を失い,坂の途中で止まってしまう.結局,急な坂に出会う度に,スコップを使って人力で雪かきをしなくてはならなかった.一緒に行った学生に「体力お化け」がいてくれて助かった.彼がいなければ,調査がまともに進んだか分からない.私は,雪の中での調査経験はほとんどない.今回の調査は私にとっても非常にいい体験だった.

雪かき作業.新雪なので雪は軽いが体力を奪われる.
化け物級の体力を持つ学生の背中
 
 
 これだけ苦労したからには,いいデータが取れることを期待したい.今回の調査の目的は,簡単に言うと以下の通りだ.まず,死肉のような高質な資源は,さまざまな生物間で利用をめぐる激しい競争が引き起こされている.偉大な生態学者D. H. Janzenは,ある論文の中で,中でも微生物は重要な競争のプレイヤーであり,高質な資源を独占するために高等生物の利用を妨げるような戦略を発達させていると考えた.実際,我々が古くなった生ものを食べてお腹を壊すのは,微生物が産生した「毒素」に「当たった」からだ.Janzenは,こうした微生物による資源を独占するための適応戦略が,高等生物による資源利用の頻度や方法に大きな影響を与えていると予想したのだ.

実際,我々のこれまでの観察から,微生物の活性が高い夏季に置いた死体を直接利用する哺乳類は限られていることが分かってきた.一方で,冬季に設置してみると,さまざまな食肉目がより高い頻度で利用していることが分かった.「夏季において哺乳類の死体利用の頻度が低かった」という結果は,①夏季には代替資源が多く,哺乳類にとって死体の資源としての価値が低かった,②夏季には微生物によって短期間に利用・分解されてしまうため,哺乳類が死体を利用できる期間が短かった(微生物と高等生物の間の「消費型」競争),③夏季には,微生物が毒素を産生するなどして,哺乳類による利用を積極的に妨げた(「干渉型」競争)の3つの説明が可能だろう.

この3つのどれが重要なのかを見分けるのは簡単ではないが,一つの方法は,冬季に腐敗の進んだ死体と新鮮な死体を同時に設置して,どうなるかを確かめることだ.微生物の産生した毒素がたんまりの腐敗死体は哺乳類に利用されず,新鮮死体のみを利用していたという結果が得られた場合,③の「干渉型」競争が実際に引き起こされていたことを強く示すと言えるだろう(厳密にいえば,これだけでは駄目だけど).
 
雪の中でのカメラ設置・点検作業.

 今回は,設置できた死体の数がそれほど多くないので,統計処理の可能なデータが得られるかどうかわからない.しかし,本当に「腐肉」を食肉目が忌避するのか,するとしたらどの種の忌避反応が強いのか,忌避する種としない種でどのような生理生態的特徴に違いがあるのかなど,興味は尽きない.今,自動撮影カメラが死体をどのタイミングで利用するのかを観察してくれている.春,データの回収が今から楽しみだ.

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