昨年度から東大のM先生,国立環境研究所のYさんとともに,房総半島のシカ・イノシシの個体群管理に関する研究を始めている.房総ではこれとは別に兵庫県立大や東大が中心となって環境省のプロジェクト(推進費)も走っており,我々日大チームもこのプロジェクトにも協力している.
10月7日から9日まで,2泊3日で推進費の方の現地調査に行ってきた.このプロジェクトの目的は,イノシシの個体数の変動をモニタリングできるように,有効な密度指数を確立することにある.「密度指数」とは,実際の動物の生息密度と相関する何らかの数値指標のことで,その動向をモニタリングすることで(容易には知りえない真の)生息密度の変動を間接的に把握できる値のことを言う.もちろん生息密度を直接推定できた方がいいに決まっているが,現実には労力的・精度的に大きな制約がある.その代替物として,密度指数をモニタリングしようというわけだ.
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利用させてもらっている東大千葉演習林のログハウス。ここは文句なしの素晴らしい宿舎だ。 |
しかしイノシシほどメジャーな動物でも,絶対密度推定法はおろか,何を密度指数としたらいいのかについて定まった見解があるわけではない.もう一つの主要な大型偶蹄目シカの場合,一定面積に落ちている糞粒(糞一粒一粒)や糞塊(一度にしたと思われる糞粒の塊)の数が有効な密度指数になることがある程度確かめられている.一方,イノシシの糞を野外で見かけることはめったになく(これはこれで不思議なことなのだが),見つかる糞の数は偶然によって大きく左右されてしまう.環境省のプロジェクトでは,イノシシにも有効な密度指数を見出して,今後のモニタリングに繋げようとしているのだ.
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落ちていたカケスの羽。カメラ設置を始めると、森の落し物に目を向けている暇もなくなる… |
このプロジェクトにおける我々の役割は,他の調査がなされる場所に自動撮影カメラを設置すること.カメラデータをどのように利用するのかはプロジェクト進行中だから詳しく紹介するのはまたの機会にしよう.とにかく,我々の任務は定められた調査路(今回は7本)に,かなりの台数のカメラ(1調査路当たり15台)をひたすら設置・回収して回ることにある.
今回の調査は「ひたすらカメラ設置」の回だった.この設置調査,結構肉体的にも精神的(こっちの方がよりコタエル)にもきついものがある.カメラを置くのは本当に「作業」だ.事前に決めた場所をGPSを使ってその通りに歩き,あらかじめ決めたやり方をミスなく正確に完遂していく.作業方法はこれまで散々検討してきたから,もはや工夫の余地はほとんど残されていない.何も考えず修行僧のように心を無心にして,目の前にある決められた業務を淡々とこなしていくしかない...
昔,仲のいい研究者と,フィールドワークには「増やすための調査」と「減らすための調査」があると話したことがある.例えば,研究対象である何かを観察し,その対象についての知見を「増やしていく」.これが前者だ.そうではなくて,データを取得するためにどうしたらいいかがあらかじめ決められており,それに従って事前に計画した内容を着実に「減らしていく」ことがメインの調査もある.カメラの設置は,まさにこの後者に該当する.増やしていくための調査は,だんだん対象が分かってくる過程を体験することであり,それ自体が研究の醍醐味であるとさえいえる.しかし,後者は...,正直なところ,フィールドワーク自体に大きな楽しみを見出しにくいのだ(もちろんデータ取得後に楽しみが待っているともいえるけど).
「増やすための調査」から「減らすための調査」への移行は,研究内容の洗練化に必然的に伴うものともいえるかもしれない.そういう意味で「減らすための作業」を実践できているということはある意味では望ましいことともいえるだろう.しかし・・・,私はアフリカ時代からカメラを置き続けている.設置点検した述べ台数は,万の単位になっている可能性もある.
何を言いたいブログなのかが良く分からなくなってきたが,疲れて帰ってきて調査を振り返った時に一番に感じる本音「もうカメラの設置はしたくない」.いや,どうせまたするんだけどね...