2018年7月27日金曜日

リアルタイム・カメラトラップ

 最近,三浦半島の北部・葉山町にイノシシが出没するようになっている.少し前まで,三浦半島にはイノシシはいなかった.正確に言うと,江戸時代には生息していたらしいが,その後絶滅した.しかし,自然の拡散か,人為的な導入かは定かではないが,数年前からイノシシが頻繁に目撃されるようになった.

 「元来の自然分布域に戻ってきただけ」とも言えるので,イノシシの復活どのように捉えるべきかは難しいところではある.しかし,このまま放置すると,三浦半島の対岸,房総半島と同じ運命をたどるのは明らかである.房総半島でもイノシシは一度絶滅したが,1980年代中頃に人為的に導入され,現在では数万頭を数えるまでになった.個体数の増加・分布の拡大は今も続いており,毎年2億円近い農業被害をもたらしている.

 学生づたいに葉山町の町長と繋がり,町長直々に調査を依頼されたのが2016年の1月.それから,葉山町の環境課のSさんの協力のもと自動撮影カメラの設置・管理を続け,分布範囲・個体数のモニタリングを行ってきた.この間,すべて調査費はこちらから支出していたが,昨年度からは県も動き始め,今は委託研究という形で調査を継続している.

 さて,今日,県の担当者である横須賀三浦地域県政総合センターのSさんが大学を訪ねてくれた.Sさんは20台の若者なのだが非常に有能な方で,幅広い工学的な知識を生かして我々の調査に大きく貢献してくれている.今,Sさんが取り組んでくれているのは,現地に置いたカメラの前を動物が通過すると,携帯電波を使ってリアルタイムで動物の動画が大学のサーバ―に送られてくるシステムだ.これと同様のものは,すでに害獣捕獲用の箱罠カメラとして実用化されている.Sさんは,いくつかのパーツを自分で組み合わせて,はるかに安価にシステムを作ろうとしてくれているのだ.

 今日大学に来てくれたのは,記念すべき第1号機の作成を学生の前で実演していただくためだ.正直,本当に半日で終わるのだろうかと不安に思っていたりもしたのだが,前もって購入して置いたパーツをお渡しすると,ほんの数時間のうちにパーツを組み合わせ,バッテリーと接続するための回路を作り,ネットワークの設定をして,リアルタイム観察装置を作ってしまった.出来上がったのが以下の装置.まだデカくてゴツくて改良の余地はありそうだが,現場に置くのが今から楽しみだ.



 Sさんはあくまで県の事務職員(技術職員ではない).偶然,イノシシ対策をやる羽目になった方だが,特技を生かしながら(おそらくそれは楽しいだろう),仕事に積極的に取り組まれている姿は見習うべきところがあると思う.装置が完成したら,Sさんの了解をとったうえで,必要なパーツと経費,作成方法をまとめて紹介してみたい.問題は,うちの学生でもちゃんと作ることができるかという点だが...



 

2018年7月20日金曜日

カメラトラップ本、翻訳

    昨年度から森林総研のIさん,岐阜大のAさんと一緒に「Camera traps in Animal Ecology: Method and Analyses」の翻訳を進めている.今年の9月の哺乳類学会で発売予定だ.


    この本は,札幌で野生動物管理学会が開かれた時のシンポジウムをきっかけに編纂されたものだ.カメラトラップの歴史から行動研究,さまざまな個体数・密度推定手法まで紹介してある.2010年の出版で内容的には少し古くなっているものの,現在でも多数引用されており,カメラトラップを利用する研究者には必読の書であるといってよい.とくに10章の空間明示型捕獲再捕獲法の章や11章の占有モデルの導入の章は,これらの統計的アプローチについて参照できる日本語文献が限られていることもあり,カメラデータを使って論文を書く人には大いに参考になると思う.

    それにしても翻訳という作業は,思った以上に骨が折れる.ほぼ論文調の文章なので文学的表現に出くわすことはない.美しい日本語にする必要もない.しかし,読んで書かれている内容がはっきりと伝わる日本語にすることは思いのほか難しい.的確な日本語で表現できるかどうかは,文章を書く能力ではなく,どれだけ深く書かれている内容を理解できているのかに依存している気がする.何とか目標通り出版にこぎつけるように引き続き頑張りたいと思う.

2018年7月18日水曜日

ブログ開始!

 前々から自分のブログを持ちたいと思っていた.私も一応研究者の端くれである以上,自分が取り組んでいる研究内容について,研究論文とは違った形で世に発信したいと思う.また日常生活の中で誰かに訴えたくなるような強い感情を抱くこともままある.そういう時に自分のブログがあれば,少なくとも自己満足には浸れるだろう.

 しかし,私の感覚が古いのか,単に慎重という名の臆病に過ぎないのか,自分の書いた文章が不特定多数の人の目に触れるとなるとやはり身構えてしまう.何か人と違うことを言わねばと考えて立ちすくんでしまうのだ.そもそも私はよほど慎重を期さないと「問題発言」をしかねない.

 私の仕事仲間には,軽妙でウィットに富んだブログを作成している人もいる.その見事なくらいどーでもいい「のほほんとした」内容は,何年も書き続けられる根気も含めて本当にたいしたものだと思う.ブログというものはその人の個性が色濃く反映される.ふとした時に読んでみようと思わせる文章を綴れる人は,やはり何らかの魅力を備えたているということだろう.

 私がこのブログで目指したいのは,彼のようにユーモアに富んだものではなく,もう少し硬派なものだ.私は一応,日本では数少ない野生動物の職業研究者である.野生動物の研究には,調査の計画,実際のフィールド調査,データ集計や解析に非常に数多くのツールを使っている.これらのツールはまさに日進月歩で,少し目を離したうちにもう聞いたこともない手法が登場していたりする.このブログを使って,私がこれまで身に着けてきた様々なノウハウを公開してみたい.とくに利用機会の増している自動撮影カメラについては,世界の最先端からそう遠くない場所にいるという自負もある.私が分かることを積極的に発信していけば,ブログを読んでくれた誰かに新しい耳寄りな情報を教えてもらえることもあるかもしれない.目の見えない誰かに情報を発信することで,これまでわからなかった野生動物の豊かな世界が少しでもわかればいいというのが私の願いだ.

 と書いてきたものの,単なる個人のブログでそこまで頑張る必要はないような気もしてきた.ついつい気負いすぎること,頑張りすぎて継続性がないこと,これは私の昔からの性向だ.出来るだけ気軽に調査や研究室の様子を含めて書き留めていければと思う.