「元来の自然分布域に戻ってきただけ」とも言えるので,イノシシの復活どのように捉えるべきかは難しいところではある.しかし,このまま放置すると,三浦半島の対岸,房総半島と同じ運命をたどるのは明らかである.房総半島でもイノシシは一度絶滅したが,1980年代中頃に人為的に導入され,現在では数万頭を数えるまでになった.個体数の増加・分布の拡大は今も続いており,毎年2億円近い農業被害をもたらしている.
学生づたいに葉山町の町長と繋がり,町長直々に調査を依頼されたのが2016年の1月.それから,葉山町の環境課のSさんの協力のもと自動撮影カメラの設置・管理を続け,分布範囲・個体数のモニタリングを行ってきた.この間,すべて調査費はこちらから支出していたが,昨年度からは県も動き始め,今は委託研究という形で調査を継続している.
さて,今日,県の担当者である横須賀三浦地域県政総合センターのSさんが大学を訪ねてくれた.Sさんは20台の若者なのだが非常に有能な方で,幅広い工学的な知識を生かして我々の調査に大きく貢献してくれている.今,Sさんが取り組んでくれているのは,現地に置いたカメラの前を動物が通過すると,携帯電波を使ってリアルタイムで動物の動画が大学のサーバ―に送られてくるシステムだ.これと同様のものは,すでに害獣捕獲用の箱罠カメラとして実用化されている.Sさんは,いくつかのパーツを自分で組み合わせて,はるかに安価にシステムを作ろうとしてくれているのだ.
今日大学に来てくれたのは,記念すべき第1号機の作成を学生の前で実演していただくためだ.正直,本当に半日で終わるのだろうかと不安に思っていたりもしたのだが,前もって購入して置いたパーツをお渡しすると,ほんの数時間のうちにパーツを組み合わせ,バッテリーと接続するための回路を作り,ネットワークの設定をして,リアルタイム観察装置を作ってしまった.出来上がったのが以下の装置.まだデカくてゴツくて改良の余地はありそうだが,現場に置くのが今から楽しみだ.
Sさんはあくまで県の事務職員(技術職員ではない).偶然,イノシシ対策をやる羽目になった方だが,特技を生かしながら(おそらくそれは楽しいだろう),仕事に積極的に取り組まれている姿は見習うべきところがあると思う.装置が完成したら,Sさんの了解をとったうえで,必要なパーツと経費,作成方法をまとめて紹介してみたい.問題は,うちの学生でもちゃんと作ることができるかという点だが...